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松山地方裁判所 平成5年(ワ)891号 判決

平成三年(ワ)第三五四号事件原告(以下「原告会社」という)

有限会社南海通信工業

右代表者代表取締役

白敷昌俊

平成五年(ワ)第八九一号事件原告(以下「原告白敷」という)

白敷昌俊

右二名訴訟代理人弁護士

高田義之

平成三年(ワ)第三五四号事件、平成五年(ワ)第八九一号事件各被告(以下「被告」という)

松本睦己

右訴訟代理人弁護士

矢野隆三

主文

一  被告は原告会社に対し、金四九六万一四三五円及びこれに対する平成三年一〇月五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告白敷に対し、金一一〇万円及びこれに対する平成四年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告会社及び原告白敷のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、両事件を通じてこれを一一分し、その三を被告の負担とし、その余は原告会社及び原告白敷の負担とする。

五  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告らの請求

(平成三年(ワ)第三五四号事件)

被告は原告に対し、金一一〇〇万円及びこれに対する平成三年一〇月五日(本件訴状到達の日の翌日)から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(平成五年(ワ)第八九一号事件)

被告は原告に対し、金一一〇〇万円及びこれに対する平成四年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、無線機の販売等を業務としている原告会社が、同業者である被告が原告会社の業務を妨害し、その信用を失墜させようとして、原告会社の従業員らと共謀して原告会社の顧客ファイルを盗み出し、従業員の雇用契約上の義務違反に加担し、監督官庁や業界団体を巧みに利用して原告会社を窮地に陥れようとしたとして、不法行為を理由に、原告会社が財産的損害及び名誉棄損による慰謝料(平成三年(ワ)第三五四号事件)を、原告会社の代表者である原告白敷が慰謝料(平成五年(ワ)第八九一号事件)を請求した事案である。

一  当事者間に争いのない事実(両事件共通)

原告会社は、無線機の販売、工事、簡易無線局の免許申請の代理等を業務とする有限会社であり、主として南予地区で営業活動をしている。原告白敷は原告会社の代表取締役である。被告は「西日本通信特機」という名称で主として松山市で営業活動をしている。

二  原告らの主張

1  被告の不法行為(両事件共通)

被告は、原告会社を倒産の危機に陥れて顧客を自己に取り込む目的のもとに以下の行為をした。

(一) 被告は、原告会社の従業員であった宮坂が退識して南予地区で無線機販売を自営したい意向を持っていたことを知るや、独立の際の協力を約束して同人の退職を促し、同じく退職の意向であった従業員赤松も引き入れ、独立後、原告会社の顧客を奪う活動をするために必要な資料を退職前に持ち出すよう指示し、宮坂と赤松は、被告の指示に従って、平成三年三月上旬から中旬にかけて原告会社の顧客リスト、顧客の免許申請書控えなどの文書を持ち出してコピーを取った。

(二) 被告は、宮坂に指示して、同人が退職前に受けた原告会社への注文を、同人が退職後に独立開業した「トキワ無線」が注文を受けるようにし、同人は、これを実行した。

(三) 被告は、宮坂から、原告会社の顧客の中に電波法違反となる案件があることを聞き及ぶや、顧客、取引先、業界団体に対する原告会社の信用を失墜させ、倒産させようとして、宮坂が保管していた内部文書のコピーを手に入れ、平成三年五月以降、数度に渡り電気通信監理局に告発した。

(四) 被告は、平成三年五月以降、宮坂や日立クレジット松山営業所の赤松らに指示して、原告会社の複数の顧客に対し、原告会社が早晩倒産すること、今後のアフターサービスは宮坂又は被告に依頼すべき旨を告知させ、同年六月末、被告は、原告会社のアンテナ関連機器の仕入れ先である大阪の日本通信アンテナに電話して、原告会社が倒産するから出荷しても代金の回収ができない旨を告げた。また、原告会社が特約店契約を結んでいた日立電子株式会社高松営業所に対し、原告会社を特約店からはずすよう執拗に強要し、その結果、原告会社は特約店契約の解除を余儀無くされた。さらに、被告は、業者が業務を遂行するためには加入せざるをえない業界団体である社団法人全国陸上無線協会に対し、原告会社を退会させるよう迫った。

(五) 原告会社は、平成三年四月、保内タクシー株式会社との間で無線AVMシステムの注文を受け、日立電子に製品の発注をしていたところ、被告はこれを知り、被告が保内タクシーから注文を受けようとして、宮坂を介して同社に対し、原告会社は社員がいなくなってメンテナンスができない旨告げて原告会社の信用を棄損し、同年五月末、日立電子の社員である横関を介して原告会社に対し、保内タクシーの無線AVMシステムの注文を被告に回さないと、原告会社の顧客である西四国TCM株式会社の電波法違反の案件を電気通信監理局に告発すると電話で脅迫した。その結果、原告会社は保内タクシーからの受注を断念することを余儀無くされ、その後、被告が保内タクシーに働きかけ受注した。また、被告は原告会社をして、社団法人全国陸上無線協会から退会させるため、藤本厚を介して原告会社に対し、同協会を自主的に退会しないと、原告会社の販売している無線機の一部が漁船に設置されていることを海上保安部に申告する、それで新聞沙汰になれば教員をしている原告白敷の妻は勤めができなくなると脅迫した。

2  原告会社らの損害

原告会社及び原告白敷につき、弁護士費用各一〇〇万円が損害と認められるべきであるほか、次の損害が生じた。

(一) 原告会社分(平成三年(ワ)第三五四号事件)

原告会社に生じた損害は、主位的には以下(1)の財産的損害八八二万円及び名誉棄損による無形損害の合計一〇〇〇万円であり、予備的には以下(2)、(3)の財産的損害合計四五九万一四三五円及び名誉棄損による無形損害の合計一〇〇〇万円である。

(1) 被告の不法行為が始まった平成三年より以前の昭和六二年一〇月から平成二年九月まで三年間の原告会社における売上高平均は一年度当たり約四四六七万円、売上総利益は約二六二六万円であった。ところが被告が電気通信監理局へ申告したことにより、その対応に追われたり、その申告によって原告会社の信用が失墜して顧客が取引を打ち切ったりしたため、原告会社の売上や利益が減少した。その内訳は、①平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの間、売上高が約三七〇一万円、売上総利益が約二三四五万円、②平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの間、売上高が約三〇四八万円、売上総利益が約二〇二五万円であった。平成二年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの間の売上総利益の減少分は被告の不法行為によるものであり、その額は次の計算により、約八八二万円となる。

二六二六万円×二−(二三四五万円+二〇二五万円)=八八二万円

(2) 原告会社が既に受注していた顧客に対し、被告が介入して契約を奪ったもの(この損害は原告会社が販売していた場合の販売代金から原価を控除したものである。)

合計二二〇万円

① 清水運輸に対する基地局無線機一式 三四万円の販売代金から原価一四万円を控除した二〇万円。

② 森本建設に対する無線機 三五〇万円の販売代金から原価一五〇万円を控除した二〇〇万円。

(3) 被告との共謀により、原告会社に対する注文分を、宮坂が退社後トキワ無線の取引として販売するなどしたもの(この損害も原告会社が販売していた場合の販売代金から原価を控除したものである。)

合計二三九万一四三五円

① 十和建設に対する無線機二台の販売代金四〇万円から原価一五万三二二二円を控除した二四万六七七八円。

② 西南砕石工業に対する無線機三台の販売代金五〇万円から原価二一万五〇二二円を控除した二八万四九七八円。

③ 山吹建設に対する無線機五台の販売代金一一五万六〇〇〇円から原価四一万三一七四円を控除した七四万二八二六円。

④ 小出建設に対する無線機一台の販売代金一九万円から原価七万一一八〇円を控除した一一万八八二〇円。

⑤ 太陽建設に対する無線機一台の販売代金一九万円から原価六万八二八九円を控除した一二万一七一一円。

⑥ サンリードに対する無線機一台の販売代金二四万円から原価六万八二八九円を控除した一七万一七一一円。

⑦ 西南砕石工業に対する無線機一台の販売代金一八万五四〇〇円から原価六万八二八九円を控除した一一万七一一一円。

⑧ 保内タクシー対する無線AVMシステム販売代金一二八万七五〇〇円から原価七〇万円を控除した五八万七五〇〇円。

(二) 原告白敷分(平成五年(ワ)第八九一号事件)

被告の前記不法行為により、原告会社は信用の回復、電気通信監理局に対する報告、調査の作業に追われることとなり、その対応は専ら原告白敷が担当せざるをえなかった。原告白敷は、平成三年五月中旬ころから同年九月ころまで、約三〇〇軒の顧客を個別調査し、監理局へ報告書を提出したが、このため体調を崩し、病院で治療を受けた。そして、その間原告会社の営業を停止せざるをえなくなり、さらに特約店契約の相手方である日立電子から契約の解除を強いられたり、陸上無線協会から脱退の申入れがされるなど、原告会社は倒産の危機に面した。原告白敷の努力で倒産は避けられたものの、原告白敷は多大な精神的苦痛を受けた。これを慰謝するには一〇〇〇万円が相当である。

三  被告の主張(両事件共通)

1  被告は、平成三年二月ころ、原告会社の従業員宮坂と赤松が原告会社を退社し、独立して南予地区で無線機の販売等をしたいとの意向であることを聞かされ、営業上のアドバイスをするなど独立に協力することを約束したが、宮坂の退職を促したり、退職の時期、方法を指示したり、原告会社の内部資料の持出を指示したりしたことはない。

2  被告は、西日本通信特機という商号で原告会社と同種の営業を営んでいるが、その営業範囲は主として中予(松山市周辺)地区であり、将来南予地区への進出予定もなく、原告会社と競業関係にないから、原告会社の顧客を取り込んだり、原告会社の信用を棄損するような必要性はなく、そのような事実もない。

3  原告会社は、その営業に関し多数の電波法違反があり、被告としては、これを見逃すことは、業界の健全な発展を阻害することになるとの信念のもとに四国電気通信監理局に原告会社の違反事実を申告した。原告会社の信用を失墜させたり、業務を妨害する目的でしたものではない。

4  本訴は被告が四国電気通信監理局に原告会社の違反事実を申告したことに対する報復として提訴されたものである。

5  原告会社らの損害は争う。

四  争点

1  原告会社らの主張する被告の不法行為の有無。

2  原告会社らに生じた損害の有無、その額。

第三  争点に対する判断

一  前記当事者間に争いのない事実に併せ、証拠(甲一号証の一ないし九、三号証、五号証、七号証、一二号証、一八ないし二一号証、二三ないし三二号証、乙一号証、三ないし一七号証、証人宮坂誠次郎、同赤松理津子、同石丸輝彦、原告会社代表者兼原告本人〔一、二回〕、被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

1  原告会社は、無線機の販売、工事、簡易無線局の免許申請の代理等を業務とする有限会社であり、主として南予地区で営業活動をし、従前は従業員として宮坂誠次郎、赤松理津子がいた。原告白敷は原告会社の代表取締役である。被告は「西日本通信特機」という名称で、原告会社と同種の営業を営み、主として松山市で営業活動をしている。

2  宮坂は、被告から頼まれて時々仕事の手伝いをすることがあったが、平成三年一月下旬ころ、被告から、支援するから独立するようにと誘われた。ほどなく、宮坂は、赤松から原告会社を退社したいとの相談を受け、被告にそのことを話したところ、被告は、被告が無線機一台当たり八万円で卸してあげるとか、営業活動は西日本通信特機がしてあげるなど被告が全面的に援助すると言って宮坂に独立を勧めた。宮坂は被告の話を信じて同年二月下旬ころ、赤松を誘い独立を決心した。被告は、宮坂と赤松に対し、独立の際は原告会社の書類を何でもコピーせよと指示し、宮坂らは同年三月上旬ころから中旬ころにかけ、原告会社の顧客リストや無線局免許申請書控のファイルを持ち出してコピーをした。そして、被告の指示により宮坂は同年四月下旬に、赤松は同年三月下旬に原告会社を退職し、宮坂は北宇和郡広見町でトキワ無線の商号で原告会社と同種の営業を開始したが、被告が先に約束したことを実行しなかったことなどから、しばらくしてトキワ無線の経営を断念した。

3  宮坂は、独立するや原告会社の顧客方を回って独立の挨拶をしたり、営業活動を行った。もっとも、原告会社の顧客に対する営業活動は、しばらくして被告から止められた。しかし、被告は、宮坂に対して、同人が退職前に受けた原告会社への注文を、同人が退職後に独立開業した「トキワ無線」で注文を受けるよう指示し、宮坂はこれを実行した。

4  被告は、宮坂や赤松から、原告会社の顧客の中に電波法違反となる案件があることを聞き及び、宮坂が保管していた前記原告会社の内部文書のコピーを手に入れ、これをもとに平成三年五月以降、数度に渡り多数の違反事実があるとして電気通信監理局に告発した。そのため、原告白敷は、電気通信監理局から呼び出されて事情聴取をされたほか、違反事実の是正を求められ、その対応に追われた。さらに、被告による右申告のため、原告会社は、業者が業務を遂行するためには加入せざるをえない業界団体である社団法人全国陸上無線協会から退会するよう迫まられた。

被告が、右告発をするについて、自ら事実の有無を調査確認した形跡はない。

5  被告は、平成三年六月末ころ、原告会社のアンテナ関連機器の仕入れ先である大阪の日本通信アンテナに電話して、原告会社が倒産するから出荷しても代金の回収ができない旨を告げた。また、被告は、原告会社が特約店契約を結んでいた日立電子株式会社高松営業所に対し、原告会社を特約店からはずさなければ日立電子が高知県で受注した無線工事が談合であることを新聞社へ報告するなどと言って迫ったため、原告会社は特約店契約を解除された。

6  原告会社は、平成三年二月、保内タクシー株式会社との間で無線AVMシステムの注文を受け、日立電子に製品の発注をしていたところ、被告が保内タクシーから注文を受けようとして、日立電子に働きかけたため、同年五月末、原告会社は、日立電子の社員である横関から、「保内タクシーの無線AVMシステムの注文を被告に回さないと、被告が原告会社の顧客である西四国TCM株式会社の電波法違反の案件を電気通信監理局に告発すると言っているので、注文を被告へ回してくれ」と言われ、原告会社は、やむをえず保内タクシーからの受注を断念したが、その後、被告が保内タクシーに働きかけ受注した。

7  宮坂や赤松が退社した後、原告会社に入社した上甲由美子は、平成三年六月ころから二回にわたり、被告や被告の知人の森岡から、西日本通信特機が南予で営業所を出すため、これに協力してくれるよう勧誘を受け、その際、被告から、「原告会社はほどなく潰れるだろう」などと言われたりした。

二 右の認定事実によれば、被告は、支援することを約束して宮坂や赤松が原告会社から独立することを勧めたのであるが、これによって、従業員二名の会社が一挙に従業員を失うことになったのであるから、代わりの従業員を雇用することが可能であったとしても、原告会社の組織の弱体化を来したものというべきであり、また、宮坂らに対して原告会社の内部資料の持ち出しを指示し、原告会社への注文を独立後に利用することを勧めたりし、さらに、宮坂らの話から原告会社の顧客の中に電波法違反の案件があることを知るや、同人らから原告会社の内部文書のコピーを入手して、これにより多数の違反事実があるとして電気通信監理局へ申告し、或いは原告会社の特約店へ特約店契約の解除を迫ったり、原告会社の取引先へ取引妨害の電話をかけ、注文を奪おうとしたのであるが、これら被告の一連の行為は、原告会社の顧客を奪い、原告会社の信用を失墜させ、経営の基礎を揺るがせるものである。そして、これら被告の原告会社に向けた数々の行動と、被告が前記上甲に対して、南予に営業所を出すから手伝ってくれるようにと勧誘した事実を併せ考えると、被告は、南予へ営業を拡大しようとして、競争関係にある原告会社からシェアを奪う目的で右の行動に出たものと認められる。そこで、被告の行った一連の行為とその目的、それによって原告会社に生じた結果等を併せ考えると、被告の行為は、正当な競争行為の範囲を逸脱した原告会社の営業に対する妨害行為というべきである。したがって、被告は、原告会社らに対し、不法行為による損害賠償責任を負担すべきである。

三  損害

1  原告会社に生じた財産的損害

証拠(甲一〇号証、一一号証、一七号証、一九号証、二一号証、三四号証、三五号証、証人宮坂誠次郎、原告会社代表者兼原告本人〔第二回〕)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

① 平成三年二月ころ、原告会社は清水運輸に対して基地無線機一台を取りつける注文を受けていたところ、被告は、宮坂からそれを教えられ、原告会社から依頼されたようにして清水運輸に基地無線機一台を納入した。原告会社が販売していた場合、三四万円で販売し、原価一四万円(甲三四)を控除した二〇万円が利益として見込まれた。

② 原告会社は、森本建設に対して平成元年ころから営業活動をし、免許更新時の平成三年には、原告会社が受注して新規の無線機に交換する予定で、三五〇万円の見積書を提出していた(甲一〇)。ところが、被告は赤松から見積書を入手して(甲二〇)、森本建設に対し営業活動をして平成三年六月無線機二〇台(甲一七)を納入した。原告会社が販売していた場合、一台当たり一三万円で販売し、その原価は無線機一台が五万円、アンテナ一本が四〇〇〇円、基地局資材及び工事費一式が一〇万円(甲三五)と見込まれるから、これらを控除した一四二万円が利益として見込まれた。

原告会社は、当初の見積もりどおり二六台分の契約が被告に奪われた旨主張するが、二六台を販売できた蓋然性を認めるに足りる証拠はない。

③ 原告会社は、平成三年三月ころ、十和建設から注文を受けていたが、宮坂は原告会社を退社した後、平成三年五月七日、トキワ無線の取引として無線機二台を十和建設へ納入した。原告会社が販売していた場合、十和建設に対しては従来一台二〇万円で販売していたから、四〇万円で販売し、原価一五万三二二二円を控除した二四万六七七八円が利益として見込まれた。

④ 原告会社は、平成三年二月から四月までの間に、西南砕石工業から無線機三台を受注していたが、宮坂は原告会社から退職した後平成三年五月七日、トキワ無線の取引としてこれを納入した。原告会社が販売していた場合、三台を五〇万円で販売し、原価二一万五〇二二円を控除した二八万四九七八円が利益として見込まれた。

また、宮坂は、同年六月二〇日、西南砕石工業から無線機一台を受注し納入した。原告会社が販売していた場合、一八万五四〇〇円で販売し、原価六万八二八九円を控除した一一万七一一一円が利益として見込まれた。

⑤ 宮坂は、原告会社の顧客である山吹建設が無線機の新規設置を決定していることを知りながら、原告会社に在職中には同社から受注せず、退職後の平成三年五月一四日、トキワ無線の取引として、無線機五台のリース契約を締結する方法で注文を取り、被告がこれを納入した。原告会社が販売していた場合、リース契約であるから販売代金は同じであり、原価四一万三一七四円を控除した七四万二八二六円が利益として見込まれた。

⑥ 原告会社は、小出建設から無線機一台を受注していたが、宮坂は原告会社から退職した後平成三年五月一五日、トキワ無線の取引としてこれを納入した。原告会社が販売していた場合、同社に対する従前の販売価格一九万円で販売し、原価七万一一八〇円を控除した一一万八八二〇円が利益として見込まれた。

⑦ 原告会社は、太陽建設から無線機一台を受注していたが、宮坂は原告会社から退職した後平成三年五月二四日、トキワ無線の取引としてリース契約を締結する方法で注文を取り、被告がこれを納入した。原告会社が販売していた場合、同社に対する従前の販売価格一九万円で販売し、原価六万八二八九円を控除した一二万一七一一円が利益として見込まれた。

⑧ 原告会社は、サンリードから無線機一台を受注していたが、宮坂は原告会社から退職した後平成三年五月二八日、サンリードに働きかけ、被告が同社との間で売買契約を締結してこれを納入した。原告会社が販売していた場合、同社に対する従前の販売価格二四万円で販売し、原価六万八二八九円を控除した一七万一七一一円が利益として見込まれた。

⑨ 原告会社は、保内タクシーから無線AVMシステムを一二八万五〇〇〇円で受注していたが、被告の前記妨害行為により、受注を断念せざるを得なくなり、被告がこれを納入した。原告会社が販売していた場合、原価七〇万円を控除した五八万七五〇〇円が利益として見込まれた。

以上の各販売先は、いずれも原告会社の顧客であり、販売日が、いずれも宮坂が原告会社を退社して間もなくのころであることの外、前認定の被告の行った原告会社に向けての数々の行為の態様、その目的、宮坂の関与の態様等を併せ考えると、右①から⑨に記載の原告会社がうべかりし利益は、被告の不法行為によって生じた損害と認められ、その合計額は、四〇一万一四三五円となる。

原告会社は、主的請求として、平成二年一〇月から平成四年九月までの間の売上総利益の減少分が原告会社に生じた財産的損害である旨主張するが、売上総利益という統計上の数値の変動には、通常数々の要因が考えられるので、その減少分全額(或いはその内の何割)が被告の不法行為のみにより生じたものであることを認めるに足りる的確な証拠がない。

2  原告会社の無形損害及び原告白敷の慰謝料

被告は、原告会社に多数の電波法違反の事実があるとして、平成三年五月以降、数度に渡り電気通信監理局へ告発したため、原告会社は社団法人陸上無線協会から退会を迫られるなどの事態に至った。したがって、原告会社は、被告の右告発により、その社会的評価を低下させられたものといえる。

被告は、「業界の健全な発展のため」すなわち、公共の利益のために右告発に及んだ旨主張し、乙一七号証や被告本人尋問の結果中には右主張に符合する部分もある。しかし、前認定のとおり、被告は、南予へ営業を拡大しようとして宮坂に独立を勧め、独立に際しては原告会社の内部文書を持ち出すよう指示するなどしていたものであり、後に宮坂らの話から原告会社の電波法違反の事実を聞いて、右内部文書によりこれを告発するに至った。これら告発に至った経緯とその告発の態様(多数の案件を数回に渡って告発した)に徴すると、被告は、営業を拡大する目的のもとに、その一手段として、原告会社を窮地に陥れようとして告発したものと考えられるので、右乙一七号証や被告本人尋問の結果部分は直ちに信用できず、他に被告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

また、被告の告発は、宮坂らから入手した原告会社の内部文書をもとに行ったに過ぎず、自ら事実の有無を調査確認したような形跡がないうえ、告発にかかる案件が全て電波法違反であることの的確な証拠もない。(四国電気通信監理局陸上部陸上課長作成の乙三号証には「多数の電波法違反に関する事実を確認した」旨の記載があるが、具体的な記載ではなく、その後の同局の対応〔乙一七号証に添付の書類〕も抽象的である)

したがって、被告は、原告会社の社会的評価を低下させたことによる原告会社の無形損害を賠償すべき義務があるところ、原告会社の規模、被告の告発とそれによって原告会社に対する社会的評価の低下した程度、原告会社に対する財産的損害の填補額等諸般の事情に照らすと、原告会社の無形損害を填補するには五〇万円をもって相当というべきである。

次に、原告白敷が原告会社の代表取締役として、被告の前記一連の不法行為により精神的苦痛を味わったことが認められるが、これを慰謝するには、右の諸点の他、宮坂が原告会社を退社して後に同人や被告らの行為が継続した期間、原告会社が被った財産的損害額などに照らすと一〇〇万円をもって相当というべきである。

3  弁護士費用

本件事案の内容、審理の程度、認容額等に照らすと、弁護士費用中、原告会社については四五万円、原告白敷については一〇万円が本件不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。

第四  結論

以上により、原告会社の本訴請求は、四九六万一四二五円及びこれに対する本訴状が送達された日の翌日である平成三年一〇月五日から支払済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払いを求める限度で、原告白敷の本訴請求は一一〇万円及び不法行為の日の後である平成四年一月一日から支払済まで右同様の遅延損害金を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、原告会社及び原告白敷のその余の各請求は理由がないからこれらを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官高橋正)

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